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千葉地方裁判所 昭和56年(ワ)190号 判決

原告

鈴木清高

被告

有限会社笠原商事

主文

一  被告は原告に対し、九六万四五一五円及びこれに対する昭和五六年三月二三日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告は原告に対し、一五七万五五一五円及びこれに対する昭和五六年三月二三日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに第1項につき仮執行の宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

昭和五五年八月三日午前一〇時二〇分頃、市原市五井海岸一〇番地先路上において、原告が普通乗用自動車(練馬三三そ二八〇七号)を運転して千葉方面から木更津方面に向けて進行中、前方の停止信号に従つて停止したところ、被告の被用者大崎邦生運転の大型貨物自動車(千葉一一か七五九七号)に追突され(以下、この事故を「本件事故」という。)、原告は、加療約二か月を要する頸椎捻挫の傷害を負つた。

2  責任原因

被告は、右大型貨物自動車の保有者であるから、自動車損害賠償保障法第三条に基づき、本件事故によつて原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

(一) 逸失利益 一八三万四二〇〇円

(1) 原告は、右負傷の治療のため、昭和五五年八月五日から同月二六日まで生全会池袋病院に入院し、同月二七日から同年九月二六日まで同病院に通院した。

(2) 原告は、株式会社東京ゴルフリサーチ(以下「東京ゴルフ」と略称する。)に勤務してゴルフ会員権売買の業務に従事し、本件事故前の一年間に平均月額五二万一六〇〇円(このうち固定給は一〇万円、その余は歩合給である。)の収入を得ていたところ、右入・通院期間及び同年一〇月上旬までは欠勤を余儀なくされ、その間は全く給与の支給を受けられなかつたほか、同月中旬以降就労したものの、右負傷が完治していなかつたために従前のような十分な営業活動をすることができず、一〇月分は七万九〇〇〇円、一一月分は九万四二〇〇円の給与収入しか得ることができなかつた。

したがつて、この間の本件事故による収入減は一八三万四二〇〇円を下らない。

(二) 慰藉料 四〇万〇〇〇〇円

本件事故による入・通院の期間その他諸般の事情を考慮すれば、原告の被つた精神的損害に対する慰藉料は四〇万円をもつて相当とする。

(三) 損害の填補 七九万八六八五円

原告は、本件事故について、自賠責保険金四九万八六八五円の支払いを受けたほか、千葉地方裁判所昭和五五年(ヨ)第四七二号仮処分申請事件において成立した裁判上の和解に基づき、被告から三〇万円の支払いを受けた。

(四) 弁護士費用 一四万〇〇〇〇円

原告は、本件訴訟の提起、追行を鶴岡誠弁護士に委任した。そのための弁護士費用一四万円は、本件事故と相当因果関係のある損害である。

4  よつて、原告は被告に対し、前項の損害一五七万五五一五円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五六年三月二三日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は、原告の負傷の程度を除き、認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3(一)(1)の事実は認める。ただし、退院後の通院実日数は三日に一度位である。同(2)のうち、原告がゴルフ会員権のセールスマンであつたこと及び原告が右入院期間中就労できなかつたことは認めるが、その余は争う。

同3(二)、(四)は争う。同(三)の事実は認める。

4  同4は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生及び責任原因

請求原因1の事実は、原告の負傷の程度の点を除き、当事者間に争いがなく、同2の事実についても当事者間に争いがない。

二  損害

1  逸失利益 一三六万三二〇〇円

請求原因3(一)(1)の事実は当事者間に争いがなく、原本の存在と成立に争いのない甲第一号証の一ないし四によれば、原告が本件事故によつて受けた頸椎捻挫は、昭和五五年八月二六日の退院時には頭痛、頸部痛もほとんどなくなつており、その後同年一〇月三日までの三八日間に実日数二三日通院して理学療法等の治療を受けた結果、同日治癒したことが認められる。

次に、原本の存在と成立に争いのない乙第一号証、原告本人尋問の結果並びにこれにより成立(甲第三号証及び甲第五号証中原告に対する支給証明部分以外の部分については、原本の存在と成立)を認め得る甲第二号証の一ないし三、第三号証、第四号証の一ないし三、第五号証を総合すると、原告は、昭和五四年頃からゴルフ会員権の売買を業とする株式会社五興(のちに「五興商事株式会社」に商号変更。以下「五興商事」と略称する。)に外交員(いわゆるセールスマン)として勤務していたが、昭和五五年六月同会社を退職して、同年七月一日から同一業種の東京ゴルフに入社し、営業部長として同種の業務に従事していたこと(原告がゴルフ会員権のセールスマンであつたことは、当事者間に争いがない。)、五興商事及び東京ゴルフにおける原告の給与条件はほぼ同じであり、固定給として毎月一〇万円が支給されるほかに、取引成立高に応じた歩合給が支払われるが、原告が営業上使用する自動車の燃料費以外の営業経費は原告の自弁とされていたこと、五興商事退職前一年間の原告の収入額(手取り額)は、固定給、歩合給あわせて五七六万二三〇〇円で、この中から月額約一〇万円の営業経費が支出されていたこと、東京ゴルフ入社後一か月間(昭和五五年七月分)の原告の収入額(営業経費控除前の手取り額)は、固定給、歩合給あわせて六〇万八四〇〇円であつたこと、原告は、前記入・通院期間中休業を余儀なくされ(原告が入院期間中就労できなかつたことは、当事者間に争いがない。)、昭和五五年八月及び九月は全く収入を得られなかつたこと、原告は同年一〇月三日頃から就業したものの、営業上使用していた原告所有の普通乗用自動車が本件事故によつて大破して修理不能となり、これを使用することができなくなつたことに加えて、原告が本件事故当時手がけていたゴルフ会員権の取引が右休業期間中に不成立に終るか、成立したものについてもその成果を他のセールスマンに取られてしまつたため、これによる歩合給を得られなかつたこと、更に、東京ゴルフが当時行つていたゴルフ会員権取引の性質上、セールスマンがセールスを開始してから取引成立までには約二か月間の販売活動を必要としたところから、同年一〇月及び一一月中には原告の販売活動にもかかわらず取引が成立するに至らず、このため右二か月間は歩合給収入を全く得られなかつたこと、以上の事実が認められる。

以上によれば、原告は、本件事故のため、昭和五五年八月、九月の二か月間は全く収入が得られず、同年一〇月、一一月の二か月間は固定給以外の収入を得ることができなかつたものであり、これらはすべて本件事故と相当因果関係のある損害と認められるところ、右逸失利益の額は本件事故前一年間の原告の平均月収額を基礎として算定するのが相当である。しかして、右逸失利益の額は別紙計算書のとおり一三六万三二〇〇円となる。

2  慰藉料 三〇万〇〇〇〇円

原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故によつて負傷したため、相当の精神的苦痛を被つたことが認められるところ、本件事故の態様、負傷の部位、程度、入・通院の期間その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すれば、右精神的損害に対する慰藉料の額は三〇万円をもつて相当と認める。

3  損害の填補 七九万八六八五円

請求原因3(三)の事実は、当事者間に争いがない。

4  弁護士費用 一〇万〇〇〇〇円

弁論の全趣旨によれば、原告は本件訴訟の提起、追行を鶴岡誠弁護士に委任し、一四万円を下らない報酬の支払約定がなされているものと認められるところ、本件訴訟の難易・経過、請求額、認容額などのほか当裁判所に顕著な弁護士会の報酬等基準規程をも参酌すれば、右弁護士費用のうち一〇万円をもつて本件事故と相当因果関係のある損害として、被告にこれを賠償させるのが相当である。

5  以上によれば、1及び2の合計一六六万三二〇〇円から3の七九万八六八五円を控除し、これに4の弁護士費用を加えた九六万四五一五円が、原告が本件事故によつて被つた未填補の損害額ということになる。

三  結論

以上の次第で、被告は原告に対し、自動車損害賠償保障法第三条に基づく損害賠償として、九六万四五一五円及びこれに対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和五六年三月二三日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるから、原告の本訴請求を右の限度で正当として認容し、その余を失当として棄却することとする。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 魚住庸夫)

(別紙) 計算書

本件事故前1年間の平均月収額 390,800円

(イ) 五興商事における収入額 (11か月)

(5,762,300円-100,000円(注2)×12)×11/12≒4,182,100円(注1)

(ロ) 東京ゴルフにおける収入額 (1か月)

608,400円-100,000円(注2)=508,400円

{(イ)+(ロ)}×1/12=(4,182,100円+508,400円)×1/12≒390,800円(注1)

昭和55年8月~11月の逸失利益 1,363,200円

390,800円×4-(100,000円(注3)×2)=1,363,200円

注1……100円未満切り捨て

注2……営業経費 月額 100,000円

注3……固定給収入 月額 100,000円

(甲第4号証の1、2によれば、原告が支給を受けた額は、昭和55年10月分79,000円、11月分82,000円であるが、これは、本件事故に直接基因するものとは認め難い欠勤、遅刻による減給がなされた結果であると認められるから、逸失利益算定に当つては減給前の固定給額を控除するのが相当である。)

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